2001年4月 第9話 「蕎麦つゆ」のお話 その1
一子相伝の蕎麦つゆ
蕎麦店にとって最も大切な技術は「蕎麦の味」と「つゆの味」であります。
現在の蕎麦は、蕎麦そのものの味もですが、つゆの味によって食べる物で、
江戸の老舗の蕎麦店店主は蕎麦よりむしろつゆの味を大切にする伝統があると申せます。
その訳は蕎麦が年に1度の収穫で品質の時間による低下が防げなかったことと、
粉の挽き方による色・口当たりの特徴は付けられるものの、
製麺技術の「木鉢」(水と粉を混ぜ合わせる技術)では老舗同士の技術が接近しすぎて特徴が出しにくかったため、
特徴を出し易く通年同じ味を出せ、
しかも一子相伝「のれん」の伝統と言う型で継承させやすかった「蕎麦つゆ」により神経を使ったと思われます。
「私の商売、蕎麦屋でござる。おかめ、天ぷら、玉子とじ、おつゆじゃいつも苦労する。」
と言う都都逸にも見られる通り「汁取り」だけは店主の仕事だったようです。
江戸の味の文化は当時の食材「醤油」「砂糖」「味醂」「鰹節」の4種を使いこなす伝統によって作られた物で、
現在もなおこれを継承しているのは「鰻のたれ」と「そばつゆ」の2つ、
いや鰻のたれは鰹節のだしを使いませんから唯一「蕎麦つゆ」だけではないかと思われます。