2001年6月 第11話 「蕎麦つゆ」のお話 その3
「蕎麦つゆ」のお話 その3
さて今回は御三家「更科」「薮」「砂場」の蕎麦、つゆの特色についてのお話です。
まず当家「更科」では一口に申せば甘口濃厚な汁をお出し致します。
蕎麦は一水切った蕎麦でびしょびしょに濡れたものは出しません。
そば粉も大変細かい篩で篩いますので汁をよく吸う蕎麦となります。
それ故に醤油の辛さを抑えた汁になります。しかしながら薄くしたのでは味自体がぼけますので、
濃いだしをとって醤油とのバランスを整えます。
発祥が山の手地域と言うこともあり、塩気を抑えた甘みを好むお客様が多かった事もその原因と思われます。
次に「薮」さんの汁の特徴は際立った辛さと濃厚な味と申せます。
挽きぐるみの蕎麦は常に濡れた状態で出されます。水を切ってしまうとまるで醤油を飲んでいるようになってしまいます。
同量の汁で醤油も更科の約2倍近く入ります。自然と鰹節のだしも濃く、昆布も加えて強いだしを作られているようです。
下町谷中が発祥の地と言うことから、塩気を欲する人々が常連さんとなりますので極辛の汁は自然の節理と申せます。
江戸の蕎麦店では醤油と砂糖を合せて汁の素となる「かえし」と言うものを作ります。
「更科」は本かえしと言って火を入れて 一度煮ますが、「薮」一門では生かえしと言って火を入れずに混ぜ合わせます。
「本かえし」は醤油臭さを無くしてマイルドな汁を作る技術。
「生かえし」はより醤油の力を引き出し冷たい辛さを求めた技術と申せます。
最後に「砂場」さんの汁は更科と薮の中間の甘辛でだしと醤油のバランスがその特徴といえます。
三家の「のれん」はそれぞれの「地域」と「蕎麦の内容」と言う背景を持って各々の特色を持った
「汁」を作り上げて参りました。
のれんの味の広がりが蕎麦の世界を広げます。是非お試しください