2002年11月 第28話 鴨南蛮
寒さが増し、寒風が身にこたえる頃になると脳裏をよぎるのが鴨南蛮である。
蕎麦つゆに馴染んだ鴨油をからめて食すあの味わいは冬場の逸品にふさわしいように思えます。
「鴨蕎麦」と言わず「鴨南蛮」と呼ぶのは、
葱そのもの又は葱をを入れることを南蛮と言い、鴨に加えて葱を入れた所から来たもので、
江戸時代、異風なるものを南蛮と呼んだことに起因しております。
つまり葱を始めとする野菜の多くが南蛮人と称されたポルトガル・イスパニア人によって伝来された事に由来するものであります。
蕎麦の種物として最初に始めたのは文化年間。江戸・馬喰町の「笹屋」と言われております。
この種の元祖店が、今ほとんど存続しないのは七不思議でもあります。
余談ですが、 同じ南蛮を名乗る「カレー南蛮」は、明治40年東京・早稲田の「三朝庵」で誕生しました。
このお店は今も元気に営業中です。
さて本題に戻り、昔は本鴨を寒い季節の限定品として用いていたようですが、味にクセがあるため
明治中期からは合鴨が使われております。
両胸の「抱き身」と呼ばれる部分の味が良く、もも肉は使いません。
同じ鳥でもかしわに比べてダシが良く出て汁がとても美味しくなります。
お腹が空いていて種物を2つお食べになる時は鴨南蛮を後にしないと、もう一つの種物の味が落ちる様に感じられると思います。それ程鴨南蛮の汁は良くなるものなのです。
南蛮=葱と言うお話を前段で致しましたが、聞くところによりますとこの葱を油で炒めたものが本来
の「南蛮」だという方もおりますが真偽は解りません。
油で炒める調理法も外国からの伝来でしょうから一概に嘘とは言えないと思います。
ともあれ「鴨南蛮」の作り方にも幾つかあり、
炒めた葱と鴨肉を煮るもの、 葱も鴨も炒めずに煮るもの、 両方炒めて軽く煮るものと様々です。
当店では鴨の表面を軽く炒め香ばしさを出すものの、葱は炒めず煮てお出しします。
鴨と葱では煮えて火がとおる時間がおのずと違うので、鴨だけ炒めることによって葱が煮え過ぎる事
の無いようにと考えるからであります。
そう考えると品種改良され柔らかくなった現在の葱と違って昔の葱は硬いもので、
美味しく食べさせるために炒めたり、焼いたりしたと言うことではないかと思えます。
商品の作り方については各店の考え方もあるでしょうから、
疑問に思われる所はどんどんお尋ね頂ければ我々にとっても勉強になります。