2003年4月 第33話 そば切り以前の食べ方
史跡・伝説と古い話が続いたついでに、
蕎麦がそば切りとして食べ始められた江戸時代以前の食べ方についてお話ししましょう。
「そば切り」とはご存じの様に、現在蕎麦店でお出ししている麺線状にしたものですが、これが考え出される以前から蕎麦は「粒食」として、あるいはそばがきのように「粉食」として食べられていました。
今日では、蕎麦の産地の農家などで細々と伝承されている程度で、時代の流れと共に忘れ去られ様としている食べ方のいくつかをご紹介いたします。
「うちわ餅」
岩手県安代町では、来客用のお菓子として作られたもので、
蕎麦粉を熱湯でこね、握りこぶし大にちぎり、串に刺し棒状に延ばします。
それを親指で押さえ、丸く平らな形を作り、一度茹でます。
茹で上がったら両面に胡麻味噌塗って、いろりで焼きます。
甘く香ばしい味噌の香りがお茶うけに喜ばれるものです。
この食べ方は各地にあり、煎餅焼き・薄焼き・ぱんぱ・うちわ焼き・うちわ蕎麦など呼び方も様々です。
「梁越」
蕎麦粉をベースにした郷土料理がこの「梁越」です。
まず、蕎麦粉を適当な大きさの鉢に入れ、水を少々加えて箸で混ぜ合わせてから、手でこねて弾力を持たせます。これを直径3,4㎝程の団子にしてから平らにのばし、葱のみじん切りを混ぜた味噌をのせ、
包み込みます。そして、このそば団子を天井めがけ何度も放り投げ、あとは、いろりなどの金網の上にのせ焼いて食べます。「梁を越すほど高く投げ上げるのが上手に作るコツ」と言うことからこの名前が付いたと言われております。いわゆる「そば焼き餅」の一つです。
「そば米雑炊」
そば米は、徳島県祖谷地方独特の蕎麦の保存食品です。
蕎麦の実を殻付きのまま塩茹でにし、天日で干し、精米器で殻を取り、粒の状態で保存しました。
それを米飯の炊きあがる間際に入れて食べます。塩味のするそば飯と言ったものです。
山形県鶴岡地方でも「むきそば」と呼ばれ、現在でも作られております。
そば米雑炊は、鶏ガラのスープに豆腐、椎茸、ジャガイモ、鶏肉などを入れ、
茹でておいたそば米を加えます。昔は、山鳥でだしをとることもあったそうです。
。