2003年5月 第34話 蕎麦屋の2階
蕎麦屋の二階は、元来「粋で色気のある空間」とされ、江戸落語にも語られる存在です。
江戸市中に蕎麦店が生まれた頃より、蕎麦屋というと店舗と住居が合体したものが多く、
1階部分はお客様のお席・厨房・製麺室が配置され、
2階に居住部分と客間があると言った造りになっておりました。
そこで、忙しい時やお馴染みのお客様に2階を解放した訳で、ちょっとした秘密の空間となっておりました。
外から見ただけではもちろんのこと、店の中に入っても人目から離れた場所として、落語の艶話になったようです。もちろん空想ではなく、実体としてそんな使われ方がされていたのだと思います。
庶民にとっては、馴染みの店で特別の場所がとれ、しかも蕎麦店ですので経済的と言った、便利で粋な存在だった訳です。さらに、一般のお客様からは顧客か来客かの区別がつきにくく、わけ有りのお二人にとっては好都合だったと思われます。
蕎麦店には元来、蕎麦店ならではの酒肴と吟味されたお酒がございましたが、これに仕上げの蕎麦を加えた一つのお任せコースが、この辺りから生まれたように思われます。
それでは、蕎麦屋自身が考える「粋な一杯」とはどんなものだと思われますか?
ふと考えると、暮れなずむ夕刻、まず席について「お銚子1本」。
品書きを見ながら「蕎麦味噌に焼き海苔」(蕎麦味噌はなめ味噌ですが海苔や大葉に付けると結構いけます)、お銚子追加で「鴨焼き」を摘み、お腹の都合で「時期の天種」、仕上げの熱燗を肴に、せいろを一枚(冬場なら湯通しがおつです)、と言ったところが「なるほど」と言った流れかと思います。
話を戻して、「蕎麦屋の二階での粋な文化」が再び見直される昨今ですが、確かにお若いカップルのお客様を度々お見受け致します。ご利用いただけるお客様が増えるにつれて、また新しい文化が生まれるという期待感が膨らみます。
私ども蕎麦店もスペースはもちろん、季節感溢れる品を取り揃え、粋な食文化の一端を担えればと思う次第です。最後はちょっと宣伝になりますが、「上がるよ」とおしゃって頂ければ個室もございますので、どうぞご利用の程を。 店主敬白