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2004年11月 第52話  老舗の旦那の力量

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皆さんは醤油の成分が年々変化していることにお気付きですか?
私どもも一般に出回っているものと同じ「特選醤油」を使用しておりますが、蕎麦店にとってはそば汁の材料として使用するためその成分の変化は死活問題となります。

醤油は時代の要望に合わせ塩分を減少させています。
一昔前は20%有ったものが現在では17%を切る位になっております。
勿論一度に変えたわけではなく20年以上をかけて徐々に変化させてきたのですが、これが材料として醤油を使う我々にとっては大変困ることでした。

その理由はそば汁を作る際の「出し汁」と「醤油」混合の比率が微妙に変化するからで、同じ味に整えるためには、甘くなった来た醤油ですので砂糖や味醂の量を減らしたりする対応が必要になるものでした。

「親に教えられた通りにやっております」と言うとマスコミの方は感心していただけますが、これだと材料の変化で出来上がりが大きく変わってしまうのです。 正しくは「親が教えてくれた味にしております」と言うのでないと材料の変化に沿った「伝統の家伝の味」は守れないのです。

蕎麦店は美味しくない醤油を加工して美味しいそば汁にするのが伝統の技術ですので、醤油が塩分を押さえ美味しくなると他に混ぜ込む美味しい成分を調整しないとバランスを崩してしまうのです。

そんな事で定期的にメーカーから取り寄せている成分表を見て昔の旦那衆の事を思い出しました。
その旦那衆とは「並木の藪の堀田翁」 「有楽町更科の藤村叔父」 「蓮玉庵の沢島氏」で、
ヤマサ醤油の座談会の際に、先に着いた堀田翁と藤村叔父が

「醤油の塩分が減って困る、また二、三日前にもやったろう」

「いえとんでも無い、そんな通達は工場から来ていません」と言ったやり取りをしているところへ
遅れて来た沢島氏が開口一番「また塩を減らしたな」と言ったものですから、 さすがのメーカーの担当者もその場で工場に連絡を取ったところ「実は1週間前の出荷から0.2%減塩しました。自然移行なので連絡をしませんでした」と言う返事だったそうです。

3人は「蕎麦屋の舌をバカにするなよ」といい気持ちになったそうです。
他の食材についてはいざ知らず、蕎麦と汁の材料には絶対の自信を持っているのが老舗の旦那衆です。
老舗と呼ばれる店の技術やそこで修行した人はやはり力量が違います。
材料を見る目、材料によって加工方法を変えられる技術が違うと思います。
自分の店で取り扱う食材に対する舌の鋭さが力量と申せます。

時代性を考えるともう一つ、情報収集と分析能力を付け加えながら・・・