2004年4月 第45話 蕎麦屋の旦那の一日
私ども更科一門の重鎮「有楽町更科」の藤村和夫氏がNHK出版より「蕎麦屋のしきたり」なる本を出版され、これが驚くほどの売れ行きと言うことである。前回に引き続き今回はその中の「旦那の一日」と言う一節をご紹介しようと思います。
蕎麦屋の一日は未明より始まります。朝一番の仕事は釜に火をつけ湯を沸かすことからスタートします。
今はガスで15分位で沸きますが、明治までの薪や、大正期の石炭の時はそばに付いていなくてはなりませんでした。その間に、鰹節を水洗いし、蒸して削ります。
今は削った物を鰹節屋から仕入れますが、手で削った時代、製麺機と連動した削り機で削った時代を経ています。 18リットルに対し1kgが要りますので結構大変な仕事です。そうこうしている間に湯が沸きますので鰹節を入れ出汁をとります。出汁が詰まるまでの約40分の間、うどんを捏ね蕎麦を打ちます。出汁が詰まったら、それを漉し醤油と合わせ蕎麦汁を作り、釜を洗い水を張り、また湯を沸かして二番出汁をとり、再び釜を洗って湯を沸かしうどんを茹でます。ここまでが約30分。
この間にネギを切り、海老の下ごしらえをし、鶏肉、蒲鉾、薬味の切り込みと、する事には事欠かない始末です。うどんが煮上がったら、洗って1玉ずつ玉に採ると朝の仕事が終わります。
その後河岸への仕入れに向かい、朝飯は河岸で済ませます。帰ってくると開店です。
暖簾を出し、お客様を待つことに、出前があると開店早々出前となります。
昼の立て込みが終わると釜の湯を変えたり後片づけをし、蕎麦の残り具合を見ながら蕎麦打ち、
出前の集金へと向かいます。それが終わって昼食、時計は3時を指す頃となります。
夕刻からは夜の「飲み屋」への変身準備。天ぷらの種や卵焼き、焼き鳥など、酒肴の仕込みとなります。
夜は昼時ほどではありませんので仕事の合間に食事、お客様が途絶えて閉店。
後かたづけをし、残りの汁を明日のために調整し、釜や蕎麦を洗う水槽に水を張り、火の元を確かめ一日が終わります。風呂屋に行くと「蕎麦屋さんが来たから終わりにしよう」と言われるような時間となります。
昔は定休日などありませんから月月火水木金金です。
もちろんこの記述は、昭和中期までの2~3人の人手でする蕎麦店で、従業員の居る店では「汁取り」を除いては仕込んだ職人にさせました。こうなると「帳場」が旦那の仕事、お勘定や店の気配りが主となり「朝風呂」「お稽古」の世界もあったとか。