2004年6月 第47話 お蕎麦がのびるとは
美味しい蕎麦の条件として俗に言う「三たて」というものがございます。
「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」がその「三たて」です。 今回はその中の「茹でたて」に関するお話です。
蕎麦は茹であげてからの水の切れ具合も、美味さをを引き出す大事な要素で、そば汁がよく染み込み、
蕎麦の香りが良くでるのは、せいろに盛った蕎麦から水が切れかかる頃なのです。しかし、その食べ頃を過ぎた蕎麦は次第にシャキッとした勢いが無くなりグニャグニャになりくっついてしまったりします。歯切れの良い、蕎麦独特の腰の立った食感が無くなった状態を指して「蕎麦がのびる」と申します。
蕎麦に含まれるタンパク質の約半分は水に溶けやすい水溶性で、水に溶けると粘り気を持ちます。
当店の生粉打ちそばのように小麦粉をつなぎに使わずとも蕎麦がつながるのはこの粘り気の力でありますが、蕎麦粉のタンパク質には小麦粉のグルテンのように編み目構造を作り水分をこの中に保つことが出来ないために、茹でて水にさらされた後は、麺の表面と中心の水分差が無くなってしまいます。
その為全体が柔らかくなり、「のびる」と言う現象になります。
汁をかける温かい蕎麦は汁を早く吸収し、柔らかくなり早くのびることになります。
反対にうどんがのびにくいのは原料がグルテンを大量に含む小麦粉だからです。
さらに、この「のびる」現象は、釜の中で蕎麦を茹でている時や茹で上げ、水で洗っている時にも起こります。蕎麦が茹であがった状態とは、でんぷんが糊化した状態のことですが、十分に沸騰していないお湯で茹でると、蕎麦の中心まで熱が伝わるまでの時間が長くかかり、その間に表面の方は煮えすぎになってタンパク質が余計に溶けだしのびる訳です。蕎麦を洗う段階では、一気に冷水で冷やす訳ですが、水の温度が高かったり時間をくうと、麺の内部に残っている余熱で茹でが進みのびてしまいます。
一番悪い蕎麦は、茹ですぎの洗いが悪い蕎麦で、これは最初から「のびた」状態にある訳です。
蕎麦の水溶性タンパク質は、ソバの実の中心部には少なく外側の甘皮部分に多く含まれます。
その為、香り高く色の濃い、つなぎの少ない蕎麦ほどのびが早くなることとなります。
反対に、「御前更科そば」のように中心部の粉だけで打たれた真っ白い蕎麦は、
ほとんどのびることが無く、時間が経ってもくっつかずさらりとほぐれ、お土産にも適しています。