2005年4月 第57話 蕎麦粉へのこだわり
先月に引き続き「こだわり」と言う観点からのお話をさせていただこうと思います。
少々偉そうでお恥ずかしい次第ですが「こだわり」=「哲学」と言う事になり、美味しいものをお客様にお出しするためには、良い悪いに関わらずその店その店の主張があるのがごく自然だと思います。
さて私ども蕎麦店にとって、何はさておき最重要の素材であるのが「蕎麦粉」であります。
それでは「良い蕎麦粉」とは何か。国産?石臼挽き?香り?と数々の基準が取り沙汰されますが、
私の基準はちょっと違います。
私の考える良い蕎麦粉は「適切な水分を含んだ粉」であります。
水分が少ない粉は乾いているもので、香りも乏しく食感、コシが悪く製麺にも手を焼く代物となります。
蕎麦の実は元来十分な水分を含んでおりますが製粉段階での利便性を考え,乾燥過多になる傾向が強いのです。 先月お話した当店独自の「製粉過程」は、製粉時の利便性を土返し理想に近い粉の実現に不可欠と考えてお ります。
当店とは両極端にある外国産に至っては、輸送上の管理の悪さや刈り取り後の強制乾燥のため、乾燥を通り越し焼けたものも見られる始末です。
食材へのこだわりが生まれる訳は、作る蕎麦への理想があるからに他ならず、私どもでは「御前更科蕎麦」の粉には白さと細かさ、「生粉打ち蕎麦」の粉には香りを水分の次の求めております。
こうした点を満たすために当店では
①品種として優良なもの(産地)
②良い実を大切に扱う姿勢のある製粉業者
③製粉技術の高い業者 を選んで蕎麦粉を調達することにしております。
その結果が最低で14%の水分含有量を持つ国産蕎麦粉で、こちらの指示で挽き方を変えていただける製粉業者となる訳です。老舗の多くは国産偏重と受け取られることも少なくないようですが、各店とも私どもと同じ理由でそうならざるを得ないのではないかと推測する次第です。
最近良いそばの実だけを仕入れ,粉は自家製粉するお店が増えているのは、前述の②,③が難しくなっている証拠かも知れません。 蕎麦粉選びのこだわりから始めさせていただいた「産地別生粉打ち蕎麦」には、そんな私どもの理想が含まれております。
十分な水分を前提に、「香り高い粉」「荒々しく野趣に富んだ粉」「上品でマイルドな粉」と各地の粉は千差万別です。 評価はお客様にお任せいたしますが、それぞれが日本の逸品であると言っても過言ではないと思います。
年に1度、短期間ではありますが販売させて頂く「長崎県対馬産」と「福井県坂井産」は 、探し求めていく中で掘り当てた宝物かも知れません。と言うのはこれこそが、 中国から韓国を経て日本に伝わった日本の蕎麦のルーツ(対馬産)とその種を使った(福井産)だからです。
日本と朝鮮半島の間の経由地だった対馬。本土からも大陸からも虫は通えず、風・虫媒花のソバの品種が交雑されずに残っているものなのです。
本年は昨年の台風の影響で販売が危ぶまれていますが、両産地とも例年2月頃にお出ししております。
どうぞお試しあれ。