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2006年1月 第66話  お蕎麦の長さ

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前回に引き続き、お蕎麦の標準規格の第二弾は「お蕎麦の長さ」のお話となります。
太さについての「切りべら23本」と同様,長さについても昔からの言い伝えがございます。
「うどん1尺,蕎麦8寸」と言う口伝が,江戸蕎麦職人の約束事と言われております。
お蕎麦1本25cm余りがお蕎麦の長さの定説でございます。

では何故この8寸かと申しますと、これは蕎麦の延ばしからくるものであります。
全国で継承されている古式手打ちでは1本の麺棒で蕎麦打ちを致しますが、「江戸流」では3本の麺棒を使って打つ技術が創案されました。ちなみに江戸流で使用する3本は巻き棒2本が4尺、打ち棒1本が3尺というのが一般的です。これは、麺帯をより長く、大きくかつ均等な幅・厚さにする為のもので、その結果江戸の蕎麦打ち技術は格段の向上を致します。

と言った理由で江戸では大きく長い麺帯が作れた訳で、包丁で切る際に麺帯を幾重にも折りたたむ事となりました。折たたみ方は、所定の厚さに延ばし終わった麺帯を、麺棒に巻いたまま左に90度向きを変えて、
左から右へ、そして再び左へと2つ折に致します。(もっと長い場合には三つ折りの事もあります)この二つ折りにされたものを下から上へ半分に、さらにもう一度半分にと2回たたんで4枚重ねに致します。「蕎麦8寸」というのは、長さ4尺の巻き棒で幅一杯に作った蕎麦を、このように折りたたむと幅が7寸五分から1尺になることから付けられたものであります。
折り目が切れても最低この8寸(25cm)にはなる訳です。
しかし[実際の蕎麦はもっと長いよ」とおっしゃるかと思います。

種明かしを致しますと、先のように折りたたみますと折り目は下側に参ります、
下にあれば包丁の先に引っかけられることがないので,約倍の60cm近くの蕎麦の長さが,実際にお客様に出される「真のお蕎麦の長さ」となるわけです。

「蕎麦8寸はお食べ頂く蕎麦の長さにあらず,折りたたんだ麺帯の幅」という顛末です。
蕎麦は正しく丁寧に作れば必ず長くなるものです。短い蕎麦は未熟な技術と荒れた仕事の産物です。
そば粉の割合でもありません。100%そば粉でもこれは同じです。
うちでは、年寄りから,長すぎる蕎麦も小言の対象になります。食べ難いというのがその理由。
せいろから持ち上げて,丁度そば猪口に入る長さが最適値と言うことで,のばして60cm。
二つ折りで30cm。丁度目の高さとなるのではないでしょうか。