2006年9月 第74話 蒸篭のお話
蕎麦を盛り付ける器は年代・土地柄によって色々とバリエーションがございます。
蕎麦は元来、木地椀の「蕎麦椀」に盛り付けられておりましたが、小鉢やどんぶり、磁器の皿等も用いられていました。
現在、蕎麦店で「もり」や「ざる」を注文すれば、蒸籠に盛られて出てくるのが一般的であるが、
この蒸籠が普及したのは江戸時代末期と言われております。
ご存じの様に、蒸籠は元々釜の上にはめ込み、饅頭や団子を蒸すための道具であり、蕎麦が元々お菓子として菓子店で売られていた名残という説もございます。また寛文から元禄時代に、当時切れやすかった生粉打ちの蕎麦を茹でないで蒸して売った「蒸し蕎麦」と言うものがこの原型という説もございます。
蕎麦を扱った浮世絵にも、江戸中期には蒸籠ではなく皿に乗った蕎麦の絵が数多く見られます。
皿は言うまでもなく割れて壊れますし、なにより重い。そうしたことからも、木製・朱塗りの蒸籠が江戸時代末期を境に普及したと思われます。
「蒸籠」の木地はほとんどがヒノキ材のようでありましたが、寸法や形は時代によって色々と変化して参りました。現在使われている蒸籠は、「もり蒸籠」と「ざる蒸籠」に分けられ、
「もり蒸籠」は長方形で七寸×五寸(21cm×15cm)か六寸八分×四寸八分。
「ざる蒸籠」は正方形で六寸五分四方(20cm)か丸形で直径七寸の物とだいたい決まっておりますが、
大正時代初期まではやや小型の物が主流だったようです。
蒸籠のすだれには、茨城産の「真竹」等を使い「角蒸籠」は、はめ込み式。
「丸蒸籠」は置きすだれ式と決まっていたようですが、昭和20年代以降は全て置きすだれ式になってきたようです。これは、衛生的であることと竹のすだれが痛んだ時に交換が容易であるためと考えられます。
蒸籠の表面、つまり塗りは古来より漆塗りとされておりますがごく希に白木の物もございました。
現在は樹脂製の塗料もあるそうです。
最後に、色についてですが、一般的には「焦げ茶」と「朱色」が大半を占めますが、
古くからの一部の老舗ではオリジナリティーを求めて独自の色を造り使用していることに気付きます。
私ども「更科一門」では、朱色は朱色でもより明るい「あらい朱」と呼ばれる色を造り塗り上げますし、
「藪一門」では、「黒」がのれんの色となっているようでございます。