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2007年11月 第87話  千住の葱

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老舗そば店の薬味のねぎと南蛮のねぎは、「千住の葱(ねぎ)」というのが決まり事であります。
現在では都心となり、そんな所で葱が作られているのかと思われるかもしれませんが、
ちょっと前までは畑がたくさん見られ、そば屋で不可欠な「千住の葱」が作られておりました。

千葉・深谷などの葱は、惣菜用にしかならないねぎでお値段も10分の1程度であったようです。
今はもう千住では葱はとれませんが、独特の栽培方法で作られた千住葱だけの市場が立ち、セリが行われています。 「葱◯」と名乗るねぎ問屋さんが何軒もあり、我々そば店に千住葱を配達しております。

そのねぎ問屋の中でも「あいつに能書きをいわせたらキリがない」
と言われる人物が以前話された話をご紹介すると、千住でねぎが作られるようになったのは、比較的乾いた粘土質の土質がねぎ作りに合ったからで、そのねぎの最大の特徴は、よく身がしまっていること、一吹きで煮えることだそうで、幕末に日本人も四つ足動物の肉を食べるようになり、鍋物に好都合ということから130年位前に改良されたのが始まりだそうです。

「千住の葱」は種が最も大切になるそうで、畑の物からはとらずに鉢植えにして別にとります。
種をとる時は、大きくなったねぎを半分に切り、根の部分を残して植え直し、ねぎへの負担を減らしてよい種をとるようです。種はずいぶんと甘やかして作りますが、苗は反対にかなりいじめます。
1週間くらい水を与えずにおいてから、畑に1本植にすると急に勢いを取り戻しよく葉が巻き込まれた、
身のしまったねぎができるようです。6枚目の葉が出たときに取り入れ、一番外側の泥の付いた1枚をはがして出荷します。
ですから、我々の所に来るねぎの葉は、5枚と決まっています。
よく身がしまっておりますので、床に落とすといったわずかな衝撃でも身が縦に割れるため、静かに扱うように年寄り達に叱られたことを思い出します。

この「千住の葱」を使う最大の理由は、「瞬時に火が通ること」であります。
それ故に千住の葱は煮すぎないことが大切なのです。
千住葱の葱らしさを出すポイントは火加減と時間であると言う口伝が耳に残っている次第です。

葱の話からは外れますが、ご先祖様からの言い伝え、しきたりは、若い時分には「年寄りはうるさいことばかりいうなあ」と思っておりましたが、今にして思うと「なるほど」と言うことばかり。
科学的にみても正しいことが多く、後から研究が追いついて認められることがたくさんあります。
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