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2007年8月 第84話  通人の行き過ぎ

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「通人」の食べ方に引き続き、「通人」の行き過ぎが今回のお話です。
お酒を召し上がりながら、目の前の「もりそば」にお酒をかけていらっしゃる方をお見かけいたします。
多分お蕎麦が乾いてきたので、ほぐし易くされているのだと思います。
一見「通」に見えますが実はちょっと行き過ぎかと思います。


ほぐれる事はほぐれるでしょうが折角のお蕎麦がお酒臭くなってしまいます。

こうした所作が生まれた原因は、蕎麦が乾くと箸にまとわりついてきれいに取れないからでしょうが、実際に我々蕎麦店でもお土産用の蕎麦は水をしっかり切ってから折り詰めにするのですが、乾いた蕎麦をほぐすことを目的に水を使います。しかし水を使うと言っても、蕎麦に水を付けたりかけたりしている訳ではなく、蕎麦を取る菜箸の先や指先を湿らす程度です。

お酒のにおいは強いので、お蕎麦にかけてしまったらそのお蕎麦は酒臭く、蕎麦の味・香りはしません。
蕎麦店で「もり」を肴に一杯やっていらっしゃるのでしたら、お酒で箸の先を湿らせなければならなくなるほど乾く前に、蕎麦に箸を入れ、蕎麦の表面の水分が蒸発し乾いて蕎麦同士がくっつきにくい状態にほぐしておくことをお薦めいたします。

せいろのお蕎麦は、あらかじめほぐして盛ってありますので召し上がりにくくなるほどの固まりにはならないはずだと思っています。箸を入れれば入れるほど粘りつくのであれば、それは蕎麦の作り方・茹で方が悪いか、最初にせいろに盛るときの盛り方が悪いせいです。万が一、そんなお蕎麦が出ましたらご遠慮なくお申し付け下さい。

お土産のお蕎麦も水をしっかり切り、小分けにして折り詰めいたしますが、固まって、箸でつまみ上げると全部が一度に持ち上げるようなお蕎麦は、水の切り方が十分でなく、茹でたてを乱暴に盛った結果です。こうなると蕎麦は始末が悪く、お酒をぶっかけたくなることと思います。しっかり水を切ってから盛られたお蕎麦は、お土産で持ち帰られてからも、箸の先を水で湿らせながらほぐせば楽にほぐれるはずです。
そう言うお蕎麦でしたら、つまめただけのお蕎麦を汁につけ召し上がっていただけます。
お酒をかけるよりぐっとお蕎麦の香りと味が残り美味しいと思います。

「通人」の行き過ぎは蕎麦店の中にも見られます。

運ばれてきたお蕎麦の最初の一口を汁につけずに食べることは、蕎麦自体の味・香りを楽しむ最も粋な食べ方だと思いますが、始めから最後までは頂けません。つまりそば汁無しのお蕎麦「水蕎麦」と言う物が、る東北地方の店にございます。一度食してみましたが、二~三口を過ぎると喉を通すのに一苦労でした。
「過ぎたるは、及ばざるが如し」です。もっともそれが美味いとおっしゃる方も折られますが・・