トップ > 店主の独り言 > 2010年12月 第100話 温故知新

hitorigoto_main.jpg

2010年12月 第100話 温故知新

一覧へ戻る

この独り言も100話となり、当店ホームページも今回が100回目の更新となりました。
店内でお配りしています独り言のリーフレットも151話を数えています。
拙い文書や生意気なお話にお付き合いいただき心から感謝申し上げます。
手前味噌になりますが、ご来店のお客様同士の会話にこの独り言が語られるところを時々耳にし嬉しく思います。 私自身も先代や業界の諸先輩方からのお話を橋渡しできる喜びを感じています、
と言った訳で今回のテーマは「温故知新」です。


蕎麦屋の旦那も意外と外で蕎麦を食べます。
新進の手打ち蕎麦屋さんにも勉強の為に入る事もありますが、やはりどうしても飛び込むとなると代々の老舗に足が向くようです。お蕎麦という食べ物は、蕎麦粉に水を入れて捏ね上げ、薄く延ばして細く切り、
茹でた麺を、お湯で煮出した鰹節のだしに醤油・砂糖・味醂を混ぜた汁につけて食べるという大変単純な食べ物です。誰が拵えても同じように思われるかもしれませんが、単純だからこそ技術がものをいいます。
だからこそどうしても信用の置ける古いお店となる気が致します。

悪口ではないのですが、新進の手打ち蕎麦屋さんは我々が見ても手抜きの仕事が目立ちます。
合理性と言ってしまえばそれまでですが、何かが抜けているようです。
色々なお店に伺って驚く事に、お客様の食べる姿勢が違う事に気付きます。
手打ちだ自家製粉だという新進のお店のお客様は、ちょっと背中を丸めてそば猪口を胸の真ん中に構え、
そこから箸で蕎麦を摘まみ上げ、汁につけるかつけないうちにぱっと啜り込み、もぐもぐ噛む様な光景を見かけます。

短いお蕎麦はこの方法でしか食べる事が出来ないのでしょうが、丁寧な仕事であればこんな蕎麦はできません。老舗の蕎麦屋のお客様の食べる姿勢は、そば猪口を手元に背筋を伸ばし、そば汁をたっぷりつけた後、箸でそばを目の高さまでたくし上げ勢い良く啜り込みながら猪口を口元に動かします。
蕎麦の長さが食べた方の差を生み出し、「粋」と「イキガル」の違いが生まれる様です。

蕎麦屋が感じるさらに粋な姿は、食べる前に蕎麦を食べやすい形に調節する姿ではないかと思います。
蕎麦を摘み上げては落とし、ほぐして長さを整え、ゆっくりと汁につける動作です。
蕎麦を食べる際の「間」が 何とも言えない風情を醸し出していると思うのは私だけではないはずです。

自分の店でも、伺った仲間うちの老舗でも、そんなお客様を拝見すると本当の蕎麦好きが老舗のお蕎麦を評価していただき、通って来て頂けている事に心から感謝の気持ちで一杯になります。
蕎麦という食べ物もその食べ方も一つの文化であるとすれば、大切に守って行きたいと思う次第です。
温故知新・・本物を守り続ける為に、100話を数えた今に改めて自問自答の心境でございます。