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2009年2月 第93話  美味い不味いの判断

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老舗の蕎麦屋の旦那は、もりそばが目の前に出てきた瞬間に食べずともその蕎麦が美味しいか不味いかを判断できます。その訳は「そばの姿」を見るからです。
味は姿に表れます、色・艶・形状で間違いなく判断できるのです。

まず第一に蕎麦は若い人の肌のように張りと艶がなくてはいけません。
ザラついていたりブヨブヨしていては失格です。この原因は前回もお話した木鉢に骨を折っていないことです。コネ作業の水回しがいい加減で楽をする為に加水量が多いものですから、艶が出る前に固めてしまうからなのです。水と良く馴染んでいない蕎麦がざらつくのはこの為です。

次に見るのはそばの角の有る無しです。

これも木鉢を丁寧に行い、しっかり揉み込んで全体を均一にした上で切れる包丁でスパッと切ったかどうかが勝負の分かれ目です。これも要となるのは木鉢の技術で、そばの中身の硬さが不揃いだと茹でる際に弱い所が煮崩れする事となりますし、加水量が多過ぎると芯が茹であがる前に外側の角が溶け出すのです。

見るところの最後は厚さ太さが揃っているかどうかとなります。
巴町砂場の先代の旦那のセリフですと、
「昨今流行の手打ちと称して売っている太いの細いの入り混じったそばなんぞ蕎麦屋としては失格だと思うな。プロなら機械と同じように正確に切れるまで修行することだね。細いの太いのが混ざったそばを茹でれば片方は煮えすぎ、片方は生煮えになるのは当然で職人としては愚の骨頂だよ。」と言うことになります。

外見だけで大体この程度は分かる訳ですが、ここまではそばを作る「板前」の腕の判断。

実際に食べてみると、茹でてそばを盛る『釜前』の腕を知ることができます。
硬さと腰を間違われる方が多いようですがきちっと茹で上げたそばは噛まずとも唇でプツッと切れますし、
しっかり洗ったそばは滑らかなのど越しとなります。
良く間違われる硬いそばは当たりはいいがのどを通るのに一苦労します。もっとも蕎麦とは言えない短いものならよろしいのでしょうがたぐり込む醍醐味はありません。 短い蕎麦ほど艶がなくざらついている手打ちそばを見る事がありますが、木鉢の技術の低さに加えてそばの茹で方の未熟さを感じる瞬間と思うのは私だけなのでしょうか。

さて、老舗の旦那はもっぱら「そば汁」を作るのが仕事ですから、食べ始める前にそば汁をちょこっと舐めて醤油・味醂・砂糖・出し汁のバランスと重厚さを見れば「旦那」の力量も拝見できます。
甘い辛いは店独自の主張ですが、だしの香りがプンとしたり食べている間に薄まるような汁ではこれまたプロとしては失格でしょう。そば汁の基本はその渾然一体となった味のバランスとしっかりした濃度です。
醤油に負けない強いだし汁は甘さを生みますが香りは飛ばすのが江戸流のだしとり技術の原点でもあります。