2011年11月 第105話 蕎麦ブーム
蕎麦ブームと言われ始めてから長い時間が経っています。
今年の江戸老舗蕎麦店の会「木鉢会」の新年会で、この「蕎麦ブーム」が話題となりました。
蕎麦ブームが多くのお客様が蕎麦屋に詰めかける「蕎麦屋ブーム」なら大変結構な事なのですが、
実際のところはご自分で蕎麦を打ったり、能書きを極めて蕎麦屋の批判をしたりと、旧来の蕎麦店にとっては逆に頭の痛いブームとなっている側面もあるようです。
乾麺などのインスタント食品から始まりパック麺、10割の生粉打ちから小麦粉と半々の蕎麦、外国産から国産そば粉そして拘りの自家栽培まで、色々なランクの商品が存在する蕎麦は、日本人にとって身近なるが故に食べる事に関する知識や情報だけでなく、作ることへの欲求や楽しみを生みます。
素人の方がこれほど趣味と実益を兼ね作る料理は珍しい事ではないでしょうか?
決して簡単とは言えない技術ですが、そこもまた興味を誘う原因でもあるのだと思います。
実際仕事となった私どもにとっても飽きない蕎麦作りです。
お客様方の会話の中からも蕎麦に関する知識のレベルに驚かされる事もしばしばですが、そこは「餅は餅屋」微笑んでしまうような曲解にも出会います。お蕎麦に興味を持たれ色々な知識を持っていただく事は、
蕎麦を生業とする我々には大変有難いことに他ならないのですが、前述のような「蕎麦屋ブーム」を成し遂げる為には、もっともっと蕎麦屋自身の研鑽が不可欠と考えてもおります。
蕎麦自体が持つ風味を余すことなく麺の中に打ち込む努力を始めとし、蕎麦にしっかり絡み材料の渾然一体となったそば汁作りの研究はその二本柱と考えます。 蕎麦粉・醤油・鰹節と材料選びから始まる蕎麦屋のなすべき事を再考する事が業界全体の責任と思います。
お蕎麦という素晴らしい「食」を引き継ぐものとしての自覚は、蕎麦ブームを真の蕎麦屋ブームに変える原点であるはずです。昭和20年代の作れば売れた時代が業界全体のレベル低下を生み、
機械化の裏でお座なりにされた伝統の技術を全国の蕎麦屋が思い出すことを、麺類業界の鵜飼理事長さんも全国を回って提唱なさっております。
技術の砦となる我々のような代々の蕎麦屋にも一層の勉強が大いなる宿命となっている昨今です。
その事が江戸以来続く蕎麦が一過性のブームではなく、根を張った食文化への大切な一歩になると信じています。