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2013年8月 第116話 昨今の蕎麦事情

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蕎麦の大産地北海道を収穫真近の8月の末に襲った台風によって、収穫量が例年の50%以下となった2004年の夏から9年が経ちます。 元々そば粉の自給率(国内産比率)は20%程度ではありますが、   この2004年は15%にも満たない状態となりました。 あの時は1年分の国産蕎麦粉を確保するのに苦労した苦い思い出の残る年でした。しかしながら、あの2004年を境に国内の蕎麦事情に大きな変化が生まれた事も一つの事実であります。今回は秋の新そばを直前に控えて、変化してきた昨今の蕎麦事情をお知らせしようと思います。

前半は国内産そば粉のお話です。
まず2004年以降に起こった一番の変化は、それまで30000tを越えられなかった生産量が、昭和40年以来久々に33000tにまで増えた事が上げられます。 品不足によって値段が高騰しその高値が定着した背景もありますが、我々国産使用店にとっては各県の生産量が増える事はありがたい事であります。
第二には、それまで意外と細々と作られていた夏蕎麦(6~7月に収穫)が九州数県で本格的に始められました。その結果、国産比率が25%近くまで上がり、以前は10軒に2軒程度だった国産そば粉使用可能店が、4軒に1軒になる事で、より風味のあるお蕎麦が多くのお客様に提供できる環境のお店が増えて来たと言えます。

さらに、その内容的にも面白い変化が起こっています。
元来国産の内訳は40%が北海道産、九州産が25%、北関東・長野・東北で25%、後はちょぼちょぼという状態でしたが、2004年を契機に九州産(主に鹿児島)が15%に落ち、反対に茨城は「常陸秋ソバ」という銘柄が評価され1県で10%近くまで、長野も蕎麦の代名詞の県として8%まで生産量を伸ばしてきました。
東北の大震災以降、多少の変化はありますが、2012年度の県別生産量順位は
一位北海道、二位長野、三位山形、四位茨城、五位福井、六位福島、七位栃木、以前2位だった鹿児島は10位以下となっています。さらに以前は大阪府、和歌山県、沖縄県だけが生産量ゼロでしたが、
2004年以降、非生産県が群馬、東京、神奈川、山梨、富山、岐阜、愛知、三重、京都、奈良、、山口、徳島、佐賀、福岡、宮崎・・・・と15県にものぼるようになりました。

生産を伸ばしてきたのは、いわゆる蕎麦の伝統県で独自の銘柄を売り出せる県や村興しに蕎麦を使おうとした県、生産をやめたのは蕎麦以外の作物が豊富に作れる温暖な県のようです。

さて、二八蕎麦は北海道産そば粉を使用(本年春以降は風評被害で痛手をおった茨城産を使用)していますが、生粉打ち蕎麦(蕎麦粉10割)に限っては、全国の産地から蕎麦粉を取り寄せ作っている当店にとっては、収穫量の拡大と同時に、真剣に風味の高いソバを作る県や地方が増えた事は有り難い事で、
あの年の台風の意外な副産物と感じる次第です。一時期には値段の爆発的高騰はありましたが、
現在はそれも治まり、質量共に登り基調の国産蕎麦事情かと思っております。

引き続き外国からの輸入玄蕎麦(ソバの実)についてもお話を致します。

前半は私どもが使用している国産蕎麦粉の昨今の状況をお話しましたが、後半は蕎麦粉マーケットの80%を占める、輸入そば(玄ソバ)についてお話を致します。玄ソバというのは殻を付けたままのソバの実の呼び名で、殻を取り除き製粉して蕎麦粉となります。昭和40年代は1万トン台だった外国産は50年代5万トン、60年代8万トン、平成に入ってからは10万トン前後が輸入をされている現状です。

国内生産量ははその間2万~3万トンの間で推移をしていますから、国内比率は年々下がり続けておりました。平成6年と16年には最低の15%を記録しておりました。
皆様方には驚きかも知れませんが、日本古来の蕎麦でさえ原料事情・自給率はこんな状況であります。
その結果、乾麺や茹麺は勿論ですが立食い店やチェーン店等の国産を使わない蕎麦が多くなって行きました。理由は「大きな価格差」にあります。現在の平均的なところでお話しすると、
おおよそ国産蕎麦粉は「1kg900円」、外国産は「1kg400円」という価格差が生まれます。
使わないのではなく、商品価格的に使えないそばや店が多いのが事実なのです。
蕎麦粉だけでもこの状況で、これに混入する小麦粉(1kg150~200円)も乾麺・茹麺の7割から
我々専門店の2割までありますのでその結果、原価の差はかなり開きがあると申せます。

さてその様な外国産の玄ソバですが、大きな変化は平成5年に起こりました。
昭和60年代より中国・カナダ・アメリカがおおよそ60:20:20の割合を保ってまいりましたが、
平成5年を境に80:5:15に激変しました。この理由もただ一つ「価格」であります。
元来中国産は他の外国産に対しても一段低い価格であった訳ですが,品種改良や為替レートなどで輸入価格が上がったカナダ・アメリカに対し、更に値を下げた中国産が一気に独占状態となったのが現在まで続いております。中国からはここ十年約8万トンが輸入され、アメリカの1万トンカナダの3千トンとは比べ物にならない量であります。国産そば粉を使えない蕎麦店を始め、乾麺・茹麺は全て中国産と思って差し支えないと思います。


品質的には確かに昔に比べ上がって来てはいるようですが、農薬問題や安全性については国産は勿論ですが、カナダ・アメリカ産に比べて若干の疑問符が付く様な評判を耳に致します。
国産だけでは全くまかなう事の出来ない日本の蕎麦粉消費量ではありますが、輸入品に対しても国産に対しても
きちっとした安全基準や品質管理がこれからの課題であり、本物を提供する大前提と考える次第です。