2018年6月 第139話 見立て番付
先日神田の本屋街を歩いていて面白い本を見つけた「大江戸丸見え番付ランキング」なるこの本、グルメランキングにヒットチャート、
とかく色々なものに序列をつけたがる日本人が興味を持つ内容であった。このランキング気質は今に始まった事ではなく江戸時代の人々も現代の我々と同じようにありとあらゆる物の序列が気になっていたようだ。そんな背景で登場したのが「見立て番付」である。
ルーツは皆様ご存知の「大相撲の番付」だ。当店二階の正面にも明治17年の発行された「蕎麦店の見立て番付」があるが一見すると相撲の番付と勘違いする位そっくりの仕立てである。元々「見立て」と言う意味は何かになぞられたり置き換えたりするパロディーの様な事なのである。誰がどの様にして情報を集めて作ったかは今だ謎の部分も多い様だが全国的に人気を博した秘密は白黒を付けたがり、噂が好きで、順列を付けたがり、簡潔な表現を好み、パロディー好きと言う国民性、庶民の潜在的な欲求にぴたりと応えたのが番付だったのではないだろうか。
江戸庶民の暮らしが手に取るように解る程、ニュース性があったり暮らしに密着していたり意味なく笑えるものまでその分野は多岐に渡っていた。
「衣食住」では蕎麦屋の番付を始め、鰻屋、寿司屋、天婦羅屋、人気のおかず、旬の食材、名酒、料亭、古着屋、道具屋等々。
「商売・経済」分野では良い奉公人/職人の条件、物価、名刀、地震、火事、儲かる商売等々。
「人物世相」関連では長者、酒豪、医者、仇討、良い娘、良い女房等々。
「観光・地域」では温泉、名山、橋、旧跡、祭り、名物、名産品等々。
「娯楽やパロディー」に関しては、要らない物、醜い物、雲泥の差順列大小を競う物、阿呆列伝、花魁、贅沢競争等々。まさに奇想天外、百花繚乱、歴史書よりリアルに時代を身近に感じられる品が見立て番付かもしれない。
見方はいとも簡単、表題で何の番付かを判断し勧進元や行事で主催/興行主役を知り、あとは上段字の大きい順が序列となる。(東西が有る物無い物、相撲仕立ての大関が最高位の物もあり)見立て番付で印象的なのは江戸時代に生まれたデザイン的に図案化された「江戸文字」が主に使われている点ではないだろうか。江戸文字は大きく分けると歌舞伎と縁の深い「勘亭流」、落語でお馴染みの「寄席文字」、相撲番付の「相撲字」、神社仏閣で使われる「千社札文字」の四種類。亡くなった江戸寄席文字の大家「橘右近師匠」とはご縁があり当店階段下の壁に「大入」と書かれた師匠の文字がありますので江戸文字の雰囲気を是非ご覧あれ。
さてこんな見立て番付であるが、ただ順列があるのみで、ごたごたとした批評や解説は一切ないのが江戸らしい粋を感じる。きっと昔の人は番付一表を肴にお互いの薀蓄や経験を語り飲み、更なる好奇心を膨らませたのではないだろうか。そんな所に江戸っ子の心意気ここにありと感じる次第