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2020年1月 第148話 江戸の年中行事(冬&春)

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私の江戸好きの根っこは、姿や声には触れてはいないものの口伝で伝えられてきたご先祖の姿と、生まれ育ったこの地の江戸の香りが身に染みついた事が大きな要因の様だ。と言った訳で今年の独り言は季節を楽しみ節目を大切にした江戸っ子の年中行事を数回に渡ってご紹介する事から始めたいと思います。明治5年の旧暦から新暦への移行で時期が本来より1か月前倒しとなり行事の季節感が少しずれるのが残念ではあるが、
まずは「一月」睦月(むつき)です。一年の始まりは老若男女/身分の上下を越えて集まり仲睦まじくするという事で睦月となったのが名前の由来。現代と同じように「初日の出見物と初詣」が一番の行事。初詣はその年の縁起の良い方向にある神社に参拝する「恵方参り」であったそうだ。遊びの行事は「羽根つき・凧揚げ・独楽回し」羽根つきは邪気をはね(羽根)のける縁起担ぎ。凧揚げは糸が切れると飛んでいく凧に災難を託す厄払い。独楽回しは人生が円満に回る願掛けとされている。市中は年末の忙しさの後で総じて静かだが活気づく商売には本屋があった。店頭では宝船の刷り物と贈答用としての絵草子が売れたそうだ。宝船の刷り物には「長き夜の遠の眠りのみな目覚め波乗り船の音の良きかな」と言う回文が添えられ良い初夢を見る為の道具とされた。
「2月」如月(きさらぎ)は寒さがぶり返す月で衣を重ね着するので「衣更着」とも書く。二月初めの午の日を「初午(はつうま)」と言い各地の稲荷神社が縁日で賑った。豊作を祈る行事で絵馬の奉納が習わし、江戸では王子稲荷がつとに有名。この時代江戸で一番の嫌われ者「火事」が多いこの時期、風で延焼しない様にとのおまじないとして風を切る凧が喜ばれ、初午には今でも「凧市」が立つ所が多い。下旬は「梅見」の季節とされており当地芝公園の紅梅白梅も賑いを見せていたとの事。当店変わりそばも2月は梅切りそばと相成ります。
「3月」弥生(やよい)の大行事は「雛祭り」で人形の登場は江戸初期とされているが、庶民の間に広がり今の様な形になったのは中期以降だそうだ。お供えに欠かせない菱餅は菱の葉の硬さから身持ちの堅さ、繁殖力の強さから子孫繁栄を意味し女性の節句として理想的な解釈をされたようだ。そんな菱餅だが当初は白/緑(よもぎを使用)/白の三層の二色だった。桃色が入るようになったのは明治以降。と言った訳で当店の3月の家伝三色そばも「更科(白)/よもぎ切(緑)/桜切(桃色)」と相成り候。この他の三月は今に残る「浅草三社祭」が17・18の両日に一年おきを本祭りとして行われた。一年おきの所以は祭りに財産をつぎ込む庶民の華美贅沢の禁止からとされている。芝大神宮の「だらだら祭り」も同じ理由で一年おきが本祭り。
「4月」卯月(うづき)は「衣替え」1日が着物を綿入れから袷(あわせ)に替える日とされた。初物好きの江戸っ子にとっての4月中旬は待ちに待った「初鰹」が出回る時期。初物を食べると75日長生きするとの言い伝えあり、しかし毎年高額な値段が付き何人かでお金を出し合い1尾を買い、分け合ったそうだ。