トップ > 店主の独り言 > 2023年2月 第183話「老舗の心得」

hitorigoto_main.jpg

2023年2月 第183話「老舗の心得」

一覧へ戻る

旧暦で申せば新年となるのが間もなく来る2月が本年最初の独り言になります。昨年5月にご紹介さしあげた芝百年会の製作の「芝百年暖簾の物語」でもテーマとなった「老舗」についてのお話です。
「老舗とはなんぞや?」と問えば、「長く続いている店「と理解されている言葉であるが、果たしてそれだけの定義なのでしょうか?他に条件はないのだろうか?決して老舗を差別化の為の名称ではなく、在るべき姿を再認識するために色々なご意見を当たって見たのが2023年の独り言のスタートです。慶應義塾大学文学部教授、民俗学者でもある故池田弥三郎先生はご実家も1864年(元治元年)創業の銀座天金(昭和45年閉店)と言う老舗の天ぷら屋さんの次男と言う事もあり、江戸っ子としての知識や言い伝えの中から老舗について色々とお書きになっている。その著書の中から引用させて頂くと『店の物語はそれが老舗であるならば同時に顧客の物語でもある。(中略)民衆の嗜好、大衆の肩入れが、老舗の歴史の一半を形成してきたのである。しかし老舗の歴史はそれだけではない。そうした烈しい起伏の渦中にあって事態に即応した、いわば「流行」の中にいかにして「不易」を護り続けていくかという苦心の歴史でもある。言葉を替えて言うならば、「攻勢」と「守勢」との時にあたっての対応が、しにせをして「しにせ」たらしめて来たとも言えるのである』と語られている。(『東京の志にせ』池田弥三郎編アドファイブ出版局1978)他にも老舗につ
いての明言をご紹介すると文政元年(1818)創業の和菓子の名店「日本橋榮太樓總本鋪 六世細田安兵衛相談役」は『老舗の語源は仕似(しにす)と言い、仕事を似せる(まねる=学ぶ)事、つまりなすことを学ぶ事によって仕事を正しく継承し次の代に伝承して行っている店を「しにせ」と呼ぶようになったと聞く。
ちなみに「しにせ」という言葉が先で「老舗」という漢字は後で充てられた。なお、老舗経営者の精神的支柱である「のれん」とは、守るものではなく、磨き育てるものである』とおっしゃっている。広辞苑でも「老舗」とは先祖代々の業を守り継ぎ、繁盛している店とされているが、両大先輩の教えには繁盛するためには家業を時代と共に育てて行く中で、変化しない本質的な物を忘れぬ事に加え、新しく変化していく物を常に取り入れて行く事、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質である事が記されています。
参考までに老舗についてのdataは以下の通り。1912年までに創業した老舗企業は全国で24847社。うち165社が江戸開府以前(1602年以前)の創業。最古の企業は寺社仏閣建築の金剛組(大阪)、2位は池坊華道会(京都)。都道府県別の「老舗輩出率」は京都がトップ。以下山形、島根、新潟と続いて東京は42位。業種別では酒製造がトップ(765社)で以下酒小売、旅館、呉服。都内にある老舗企業は2328社で数は日本一。うち江戸開府以前の創業は18社、当店を含め江戸時代の創業は209社、明治時代の創業は2101社で全体の9割となっています。