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2024年9月 第189話 関東のお伊勢様

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身の程をわきまえ身に過ぎた夢は持たない事を「粋」とし、背伸びや無理を「無粋」の極みとした江戸庶民でしたが、やはり夢は有った訳で、その夢と言うのが「お伊勢参り」と言われています。幕府の政策であった参勤交代による五街道(東海道・中仙道・甲州街道・日光街道・奥州街道)の整備も庶民の旅行を手軽にし、一生に一度の夢となったお伊勢参りを可能にするべく後押ししたと思われます。
特に60年に一度の「お蔭参り」は霊験豊かとされ、文政13年(1830)の3月から6月には427万6500人の参拝客があったとの記録が残されています。とは言え江戸から片道約15日かかるお伊勢参りは、当然の如くかかる費用は多額で最低でも5~6両(1両20万円とすると)100万円以上が必要となる訳で、庶民が右から左へと使える金額ではなく多くの庶民は「無尽(むじん)」と言う何人かが集まり一定の金額の掛け金をだし、入札やくじで全額を一人が受け取るシステムで順番に全員が行くまでの費用の融通をしていました。
古い仕組みですが、蕎麦屋の地区の組合では今もこのシステムで設備や改装などの資金融通をしている所もあるのです。

さてこんなお伊勢参りですが、やはり高価な夢であり近場で済まそうと思うのも人情です。当地芝には「関東のお伊勢様」と称される神社があります。それが鎮座1000年を越える「芝大神宮」なのです。伊勢神宮内宮の主祭神で天皇家の祖先にして日本国民の総氏神とされる「天照大御神」そして外宮の主祭神で五穀豊穣,衣食住守護を司る「豊受大御神」の両方を祀る事から関東に於ける伊勢信仰の中心的な役割を果たしています。歌舞伎十八番「神明恵和合取組~め組の喧嘩」の舞台として知られる芝大神宮ですが、もう一つの名物は9月に執り行われる「だらだら祭り」です。元来盛夏に行われていましたが、新暦となってからは毎年秋の長雨と重なるこの時期に、10日余りにわたって日本一長いと言われるこの祭りが行なわれます。その期間はなんと10日間!口の悪い江戸っ子達がだらだらやってる祭りと言ったのが名前の由来とされています。西暦奇数年には連合渡御と呼ばれる氏子町会の町神輿十数基が町から神社までをを練り歩く神輿の行列が行われます。祭りのシンボルは高さは12センチ程の3段の箱に藤が描かれた可愛らしい縁起物「千木筥(ちぎばこ)」、千木が千着に通じるため、江戸時代の女性は着物が増えるのを願って、箪笥の中にしまっていたとの事。
もう一つは「神明生姜」と呼ばれる生姜で食せば邪気を払い、風邪知らずとの言い伝えあり。普段は社務所で生姜飴や生姜湯として購入する事ができます。9月の当店ではお祭りに因んで「生姜切りそば」を季節の変わりそばとして販売いたします。江戸の風物をどうぞご賞味ください。