2005年7月 第60話 鰹節へのこだわり
蕎麦店の持つ技術にも色々ありますが、「だし」を引く技術が最も大切かつ難しいと思います。
江戸から続く蕎麦は麺を汁に付けて食すもので、「そば汁」は蕎麦を食べさせるベースとなり、
その基本は「だし」に帰結すると言うこととなります。
その為材料となる「鰹節」の吟味、「だし」を引く技術・戦略が、江戸の味を作り出す最も重要な要素として認識されるべき事になってくるわけです。 一口に「鰹節」と言っても原料は鰹だけではありません。
学問的に、「スズキ目サバ科カツオ属」となるものは「真カツオ」「スマ」「ハガツオ」「平ソウダ」「丸ソウダ」と5種類になり、鯖、鯵、鮪、鰯も雑節と呼ばれる節になります。
しかし、真カツオで作られた鰹節が本物であることは言うまでもありません。
これを「本節」と呼びます。
当店の場合この「本節」を主役、「宗田節」を脇役にだしを引いております。
主役、脇役とした意味は、二つの味・効力が全く違い、ブレンドすることによって自分の目指すそば汁を実現できるからであります。
魚の種類とは別にもう一つのこだわりは「カビ付け」であります。
鰹節の製造工程は、洗浄ー身卸しー煮熟(煮ることによって鮮度劣化を止め身を固める)ー燻乾(いぶすことにより水分を飛ばし、酸化防止、殺菌、香り付け)ーカビ付けとなります。
荒節と呼ばれカビ付けをしない鰹節を使用する関西に対し、江戸では「枯節」と呼ばれるカビ付けをした鰹節のみを使用するのが常識でした。当店では「本枯節」と呼ばれる、
カビ付けを3回位まで繰り返し施した物のみを使います。カビ付けには
①均等な乾燥を促し、旨味成分を凝縮する.
②カツオの身の脂肪を分解し生臭さとアクを無くす。
③澄んだ「だし」にする効果があり、
「上品でこくがあり,あっさりしているようでずっしりとした重みをもつ」だしを引くには欠くことが出来ない工程であります。こうして出来上がった鰹節の削り方は「厚削り」。
パキッと音をたてて割れる0.4mmに指定しています。家庭でお使いになる物は薄削りで0.2mm以下です。
さて、魚の種類、製法、削り方と多くの注文を出す鰹節ですが,全て「どんなそば汁」を作りたいかで決まる要素であり,醤油の塩辛さを和らげる塩ナレ効果を持つ「だし」の力をどのように出したいかという店独自の戦略であると思っております。
私の理想とする「だし」のイメージは「なめらかでひつこく無いものの、舌には重く感じ、たくさんの醤油を入れても辛くならない」ものであります。それがお蕎麦によく絡む濃厚な汁を作る基本だと考えております。
眼鏡にかなった良い素材を得てこそ、研鑽を積んだ「だし」を引く技術が生かせる訳で、その為のこだわりは必須条件と言えるものかと思う次第です。