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2007年5月 第81話  もりとざるの違い

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先般キリンビールさんのホームページでの読者アンケートにおいて、お客様からの最も多いご質問が「もりとざるの違い」であると知りました。今回はその点について知り得る事を書いてみようと思います。

元々「蕎麦切り」は汁につけて食べるものでしたが、元禄の頃からかこれを面倒くさがる人たちが、いちいち汁につけずに蕎麦に汁をかけて食べるようになりました。この安直な食べ方を「ぶっかけ蕎麦」と称し、立ったまま食べられるように冷やかけにして出されたと、「蕎麦全書」に書かれております。
その後、寒い時期になると蕎麦を温め熱い汁をかけて出すようになり、器も一つですむことから普及したようです。この「ぶっかけ蕎麦」が「ぶっかけ」になり、さらに「かけ」となったのは、寛政に入ってからと言われております。ところが、ぶっかけが流行るにつれてそれまでの汁につけて食べる蕎麦と区別して呼ぶ必要性が出てくる訳で、そこで生まれた呼び名が「もり」であります。

安永二年(1773)刊の「俳句 器の水」に「お二階、ぶっかけ二つにもり一つ」の句が見られる事から、
すでにこの時代には一般的に使われていたようです。
「蒸籠に盛る蕎麦をもりと言い、もり蕎麦の下略なり」と「守貞漫稿」にあるが、「高く盛り上げてもるから、もり」と も言われております。

一方、「ざるそば」の元祖とされるのは、江戸中期、深川にあった「伊勢屋」と言う蕎麦屋で、蒸籠や皿でなく竹ざるに盛って出すので「ざる」と名乗ったのが始まりと言われております。

「もりそば」に海苔をかけて、蒸籠も替えて「ざるそば」として売り出したのは、明治時代以後のことです。
もりとは区別するために汁もぐんとコクの深い汁を用いるのが決まりでした。
「ざる汁」とは普通のかえし(汁の元となる醤油に砂糖を溶かし込んだもの)に、さらに味醂を混ぜた御膳かえしを使った汁で、以前は当店でも「もり汁」「ざる汁」の二種類の汁がありました。
昭和60年の改築を機に、よりコクの高い「ざる汁」一本にさせていただきました。
 
現在一般的には、「もりとざるの違い」は海苔の有無だけになってしまっているようです。
また一部には海苔の有無ではなく、蕎麦自体の品質の違いによって盛り付ける容器を変え、せいろと称し区別しているお店も見受けられます。

さて、ではなぜ「海苔」だったのでしょうか?
もちろん少しでもお値段を頂けるものというが目的であったのでしょうが、そのヒントは、「かけそば」に海苔を散らした「花巻そば」であったとされております。

「海苔と蕎麦」 風味の相性が良かったことが大きな理由であります。