2010年10月 第99話 江戸蕎麦
あと数日すると今年も新そばが北海道から入りますが、
古来、蕎麦は夏の土用の後に種をまき、十月下旬の霜が降りる前に収穫するのがごく普通でありました。
それでも少しでも早く出回る「はしり」を珍重して、種まきを4月・5月、収穫を7月・8月にする物があったことも知られているところです。
現在では国内生産の4割が北海道という事もあり、地理的要因から雪解けの5月に種をまき、寒さが来る前の9月初旬に収穫するサイクルが、国内産北海道を使用する店の標準的な新そばのタイミングとなっております。旧来の新そばの時期10月下旬は、今では海外産新そばが通関を通り市場に出始める時期になっています。
今月のテーマに致しました「江戸蕎麦」は数ある蕎麦の中でも最も新そばを美味しく味わって頂ける蕎麦と確信を致しております。 と申しますのは、今から250年ほど前に江戸の蕎麦は「まるぬき」からこしらえた蕎麦粉で作られていたからなのです。
「まるぬき」と言うのはそばの実の殻を取り除いた状態の事で、米に例えると白米の状態の事であります。
現代でも地方の蕎麦は、この蕎麦の実の殻をつけたままの状態で挽き臼で挽いて粉にするため、固い殻が粉砕された粉となって黒い破片として蕎麦に混入いたします。この殻の粉は水には勿論溶けませんし、臼で挽いたとは言え粒子は大きいものであり、蕎麦が短く切れる根源ともなり、食感もざらつき、滑らかな蕎麦とならないのです。田舎蕎麦が短く、ごつごつするのはこの為です。
以前は蕎麦と言うと黒い斑点が入り、太くゴツゴツしているものと認識され、色が薄く、細く長くつながっている東京の蕎麦は小麦粉がたくさん入っていると評されました。実はこの違いは、江戸では早くから蕎麦が脱穀され、一つかみの「まるぬき」の中に殻が剥けていない実が三粒までという基準で取引がされていたからなのです。
その「まるぬき」から挽いた蕎麦粉には、当然の事ながら蕎麦の殻は入らず、つながり易く斑点もない、しなやかな蕎麦が出来上がります。これが「江戸蕎麦」の美味しさであり、江戸で蕎麦が大流行をした原因でもあると思われます。同じ蕎麦と言っても地方の蕎麦とは違った蕎麦となる訳で、
私どもが「蕎麦」をあえて「江戸蕎麦」と呼ぶのはこの意味を大切にしたいからに他なりません。