2011年2月 第101話 蕎麦の香り
お蕎麦の評価で皆様方が大切にされている一つに「香り」があります。
私たち蕎麦店も蕎麦の香りについては材料選びから神経を使っていますが、
香りの良い蕎麦が出来る蕎麦粉かどうかは、粉の段階で分りません。粉のうちに分るのは甘いか苦いかで、いい粉は舐めてみると甘みが口の中に広がります。
最近はダッタン蕎麦なる「にが蕎麦」が流行っていますが、一般的に実を挽く時に過度の熱が加わると苦くなるのが蕎麦の特徴です。擦るように挽くのではなく、切る様に挽くことが大切になります。
お茶でもタバコでも良く切れる臼や刃で切らないと甘くなりません。
蕎麦の香りは冷えた状態では揮発しません、加水をして入念に混ぜ合わせている段階の摩擦熱によって立ち昇って参ります。蕎麦粉の香りの良し悪しの判断はここで致します。
その蕎麦の香りも「種物」は当然の事ながら、「もり」でも余り分るのもではありません。
蕎麦が喉を通って胃袋に近づく頃に、口の中に広がるものです。
蕎麦に鼻を押し付けて嗅いでみても、微かに分る程度だと思われます。
もり蕎麦で香りが分るとすれば、「湯通し」にするか「水切り」をしなければなりません。
ところが最近は「あつもり」は知られていないので殆どご注文もなく、「水切り」に至っては古い蕎麦を出したとお叱りを受けるのが落ちとなります。昔のお客様の中には「水切りある?無ければあつもりにしてくれ」というお客様がたくさんいたと聞いております。確かに熱を加えたり乾き始めた蕎麦からは香りが立ち昇りますが、蕎麦自体の美味しさにはみずみずしさも重要です。
その分岐点はひと水切る程度でしょう。
香りや味を包んでしまっている「水のベール」をまとったびしょびしょの蕎麦ではなく、軽く水を切った程度が、喉越しと香りをお楽しみいただけると思います。香りを試したければ少し延びた蕎麦にはなりますが、お席にてさらに水が切れるまでお待ち頂くのも一考です。いつもと違った味と香りになることと思います。
更科そばや変わりそばは延び難いお蕎麦ですので、甘さや香りは歴然とした違いを体験していただけると思います。ゆっくりお食べいただくと最後の方はそんな状態になるかもしれません。
とは言え、お蕎麦はあくまでも喉越しをお楽しみいただける数少ない食べ物です。
茹でたてをつるつるとたぐり込む姿や音に粋を感じます。何事も試行錯誤です。