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2009年5月 第94話  虚業と実業

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昨年度の東京都内のそば店の廃業は100店に及ぶと言う。 実に都内全体の3%を越える数字である。
多いと思われるか、経済状況を考えると少ないと思うかは異論のある所だが、業界・同業者としては寂しい限りである。

後継者問題、土地開発問題、業績の悪化と原因は様々だがチェーン店や異業種の買収も多いと聞き及びます。古くからの伝統食である「蕎麦」がいとも簡単に無くなるとは思えませんが、その内容が変化していく事には不安は禁じえない。我々も断じて軽視している訳ではないが、生産性、コスト感覚を第一義にした戦略を持つ企業とは一線を隔してのそば作りである。

蕎麦屋の両輪である「麺と汁」にしても「乾麺と生麺」は全くの別物、「機械製粉と石臼製粉」はやはり違うものであり、「手もみと機械製麺」は違ったそばとなると確信いたしておりますし、「そば汁」にしても「砂糖の甘さと出しの甘さ」は似て否なものであり、「濃厚な汁と薄い汁」はそばへの吸い込み方に歴然と差が出るとことなります。そばと言う食べ物が我が国において余りにも身近なものであるが故に、多種多様のお蕎麦の存在がその本質的な違いに気付かない次世代を育だて、誤った感性や情報が受け継がれる事は恐ろしい限りであります。

昨年末より取り沙汰されている「強度偽装」や「株偽計取引」の結末、「輸入米国牛肉」の安全性は、見せかけと中身の大いなる違いを再認識させるものであり、真の信用が求められることの大切さを改めて示すものではないでしょうか。

「虚業と実業」「本物とまがい物」しっかり見分けないと誤魔化される恐ろしい世の中です。
虚業もまがい物もそれと知って対処するならまだしも、その実態や見分ける能力が求められる時代なのでしょう、日本人が永年にわたって培ってきた確実性や、繊細さを改めて思い起こし進む時が現代なのかもしれません。

改革という言葉がそこかしこで飛びかっている昨今ですが、我々が歩いてきた道は全てにおいて「革新の連続」であり、それが正に「伝統」になるのだと言う事を感じる今日この頃です。
真摯に本物を作る事、誠実に物を作る事、見栄を張らず背伸びせず歩んでこその「実業」と感じます。
正にお蕎麦の如く「細く長く」そんな努力を重ねて行きたいものであります。