2009年9月 第95話 蕎麦づくし
回復の兆しを見つけることのできない世の中ですが、少しでも明るくと言う願いを込めて江戸で流行った風物を一つご紹介致します。
「アアめでたいな、めでたいな、めでたいことで払うなら、鶴は千年、亀は万年・・・」
という厄払いをする風習が江戸時代より言い伝えられております。
大晦日の夜や節分の夜など「お払いしましょ、厄落とし。厄払いしましょ、厄落とし。」と江戸の町々を流して歩く「厄払い」という一種の祝福芸人がいたということです。
冒頭の文句でもお分かりのように、
その符牒は「アアめでたいな」で始まりその後に「役者尽くし」「魚尽くし」「青物尽くし」などのめでたく面白い句をつなぎ、末尾は必ず「まっさかさまにさらり」と締めるのが決まり文句であったそうです。
まあ、芸人と言ってもただそれだけの芸ですから、おそらく芸人というより街中にたむろする乞食に近い生業だったように思われます。
厄払いを唱えたかどうかは全く定かではありませんが、同じ形式にのっとった「蕎麦づくし」と言う文言がありましたのでご紹介する事に致しました。ここにご紹介する「蕎麦づくし」には
12種の種物(温かい蕎麦)と5種の蕎麦に関する語句が巧みに配置されております。
縁起の良い内容に加えお色気がほんのりと漂っているのは、
いかにも江戸庶民の中で育った蕎麦の真骨頂と言える見事な出来栄えに思われます。
お読みになりながら
12種の蕎麦と5種語句をの是非探し当てていただければお蕎麦を待つ時間を忘れていただけるかもしれません。お試しあれ。
「蕎麦づくし」
「ああめでたいな、めでたいな 。また新玉の新そばに、ご祝儀めでたき手打ち蕎麦、親子なんばん仲もよく、めうとはちんちんかもそばで、暮れるとすぐに葱なんばん、上から夜着をぶっかけそば、互いに汗をしっぽくそば、てんと溜まらぬ天ぷらそば、かけかけさんへあんかけのそのごりやくはあられそば、やがてお産みの玉子とじ、あつもりおいて育て上げ、蝶よはなまきもてはやし、かかるめでたき折からに悪魔うどんが飛んで出て、やくみからみをぬかすなら大こんおろしでおろしつけ、したじの中へまっさかさまにさらりさらり。」
(蕎麦12種)
親子南蛮、鴨蕎麦、葱南蛮、ぶっかけ、卓袱、天ぷら、かけ、あんかけ、あられ、玉子とじ、あつもり、花巻、
(語句5種)
新そば、手打ち、薬味辛味、大根おろし、下地